“羊飼いの暮らし〜イギリス湖水地方の四季〜”

羊飼いの暮らし

“羊飼いの暮らし〜イギリス湖水地方の四季” ジェイムズ・リーバンクス

600年以上つづく羊飼いの家系に生まれ、オックスフォード大学に学んだ著者が一家の歴史を辿りながら、厳しくも豊かな農場の伝統的な生活、そして湖水地方の真実をつづる本。

 

農場で働く父親や母親たちは勤勉で聡明な人々であり、やりがいのある立派な仕事に誇りを持って取り組んでいる – そんな考えは、教師の頭のなかにはまったくないようだった。「教育」「向上心」「冒険」「仕事での顕著な業績」を成功の尺度と捉える女性にとって、羊飼いになることは失敗例でしかなかった。

( – 14p )

のちに私は、現代の産業社会が「どこかへ行くこと」や「人生で何かを成し遂げること」の大切さに取り憑かれていることを知った。要するに、地元に残って肉体労働をすることにはたいした価値がないということだ。私はそんな考え方が大嫌いだ。

教師の話を聞いているうちに、どんどんん腹が立ってきた。奇妙なことに、彼女は私たちの住む土地について詳しく知っており、愛しているとまで言い放った。ところが、教師が頭に描き、口で説明する湖水地方は、私たち家族にとってまったく未知の世界だった。彼女が愛してやまないのは、”自然のままの”景色、山々、湖が広がる場所、余暇と冒険のための場所、私が会ったことのない人々がぽつりぽつりと住む湖水地方だった。彼女の独白のなかの湖水地方は、登山家、詩人、旅人、空想家といった巡歴者のための行楽地だった。彼らは、両親や私たちとはちがい”何かを成し遂げた”人々だった。ときおり、教師はうやうやしい口調で誰かの名前を出しては、視線を上げて生徒たちの反応を待った。(誰も反応を示さなかった。)アルフレッド・ウェインランドやクリス・ボニントンなどの名前を出したかと思うと、「ワーズワース」という名の人物について長々と語った。

誰ひとり知らなかった。教師たちをのぞけば、その行動にいた全員が戸惑っていたにちがいない。

( – 15p )

 

 

文・写真 natte